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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)840号 判決 1960年2月09日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人近藤三代次の上告理由第一点について。

裁判所がある書証の趣旨を解釈判断するにはその書証記載の文言を他の証拠に照らしその作成された事情その他諸般の事情を斟酌することができるのであり、その結果、ある書証の趣旨はその記載文言のとおりであると判断し、ある書証の趣旨はある程度その記載文言と異るものであると判断することができるのであつて、これをしたからといつて直ちに経験則に違反するものといえないこと多言を要しない。この理はその書証が同一人の作成にかかる場合にもかわりはない。原判決は、所論甲一号証の一の書面は、それに賃料不払を条件として契約を解除する旨の文字はないが「書面全体の趣旨及び第一審証人田中靖光の証言によつて明らかな右書面の発せられるに至つた前後の事情等に徴しこれが賃料不払を条件とする契約解除の意思表示に外ならない」こと明らかであるとしているのであつて、右判断は首肯することができる。また、乙一号証の書面については、第一審判決が、これを田中靖光証言の一部と綜合すると賃貸借取極を前提とする地代増額通知でなく損害金請求の趣旨と認められるとした判断を原判決は是認しているのであつて、この判断も首肯することができる。所論、原判決が甲一号証の一については書面上の文字を重視し乙一号証についてはこれを軽視したという点は証拠の取捨判断の非難にほかならない。原判決には所論の違法なく論旨は採用できない。

同第二点について。

借地法四条二項の規定は誠実な借地人保護の規定であるから、借地人の債務不履行による土地賃貸借契約解除の場合には借地人は同条項による買収請求権を有しないものと解すべきである(借家法五条についての昭和二九年(オ)六三七号同三一年四月六日第二小法廷判決、集一〇巻四号三五六頁、昭和三一年(オ)九六六号同三三年三月一三日第一小法廷判決、集一二巻三号五二四頁参照)。これと同一の見解に立つ原判決の判示は相当であり、所論は理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 高橋潔 裁判官 石坂修一)

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